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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)1165号 判決

復興金融金庫

日本開発銀行

中小企業金融公庫

事実

訴外和泉工業株式会社は「自転車及び農器具の製造並びにこれらに附帯する一切の事業」を営むことを目的とする会社であるが、営業不振で損失を重ね、遂に昭和二六年三月二六日午前一〇時破産宣告を受け、同時に原告がその破算管財人に選任された。ところがこれより前、右破算会社はその取締役横田ナカ一族の同族会社である訴外横田織布株式会社が復興金融金庫から金融を受けるにあたり、同二三年九月三日、同会社のため自己所有の本件不動産を担保に提供して工場抵当法三条による抵当権を設定し、その登記を了した。しかし乍ら、右抵当権設定行為は破算会社が他人のために何等の対価利得を収めることなく、自己の全不動産を抵当権の目的物として提供するもので、定款所定の目的とは全く関連性なく、その必要性を欠くものであるから、会社の目的の範囲外の行為であつて無効であり、従つて前記設定登記も無効である。被告(中小企業金融公庫)は右抵当権者復興金融金庫より日本開発銀行(本訴提起当時の被告であつて、後本訴より脱退した)を経て右抵当権を承継したものであるから、これに対し右登記の抹消手続を求める、というのが原告の主張である。

被告は、破産会社が原告主張のごとき事業を目的とする会社であり、且つ原告主張の不動産につきその主張のような抵当権が設定され、登記されたこと、及び被告が右抵当権を承継したことは認めたが、その余の事実は否認した。

理由

そこで先ず本件抵当権設定行為が破産会社の目的の範囲外の行為か否かについて考えてみると、破産会社は自転車並びに農器具の製造を目的とする営利法人であるから、その所有不動産につき担保権を設定すること(通常は自己の金融等の必要に基くものであるが、必ずしもこれに限らない)は、営利法人としての存立を認める以上、当然になし得べき事項としてその権利能力を認める必要があることは言を俟たないところであり、必ずしもその行為の具体的場合につき、その行為の具体的に追求した現実的な目的の当否を判断することは、権利能力の問題としては必要でないと考えられる。しかも本件において認められる具体的事情は、証拠によると、破産会社と訴外横田織布株式会社とは同族会社で相互依存の関係にあり金融の場合には互に保証又は物上保証を供与していた間柄である上に、右訴外会社が本件抵当権により借り入れた資金の一部は破算会社に融通される計画にあつたことが認められるから、行為の具体的目的としても相当であることは明らかである、として原告の請求を棄却した。

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